夢をみる・・・

見る夢はやはりサファイアの光りに満ち溢れる大広間・・・

だが、そこに玉座以外で見えるものがある・・・

それは玉座から一直線に敷かれた赤絨毯。

ようやく俺は気付く。

(ああ、ここは謁見の間だ)

間抜けも極まる。

そんな事は玉座を見て直ぐに気付くべきだったのに。

それはそれとして、改めて思うがここは広大すぎるにも程がある。

一体何人の臣下がここに入ると言うのだろうか?

(それにしても・・・)

覚醒しつつある意識の中俺は疑問を持つ。

(ここが謁見の間だとして玉座の主は何処に行ったのだろう・・・)

蒼の書五『遭遇』

「・・・う・・・」

間の抜けた声と共に士郎は眼を覚ます。

「ここは・・・俺の部屋」

「よう、やっと起きたか」

障子が開かれ士郎に陽気な声がかかる。

「・・・?ああ、ランサーおはよう」

「おう。しかし、よく寝てたな。半日以上寝てたぞ」

「半日以上??」

見れば今は午後の四時。

「げげ!もうこんな時間・・・そっか・・・よほど疲れてたみたい・・・??」

普通に会話を続けていた士郎は不意にまじまじとランサー=クー・フーリンを見る。

「どうした?」

「ってランサー、お前なんでまだ現界しているんだ?・・・何を今更って言うかも知れんが」

「ああ、その件か。悪いが俺にもわからねえ。ただ判るのは、俺以外にもセイバー・ライダー・キャスター・バーサーカーが受肉同然で現界しているって事位か」

「何だと?・・・どうも寝ている間にとんでもない事態が起こっていたようだな」

士郎は完全に覚醒する。

まず彼がすることは情報を集める事に他ならない。

「取り敢えず。皆からも事情を聞かないと」

「おう、全員居間に集まっているぞ。お前が起きるの待っているからな」









「おはよう・・・」

「先輩!」

「士郎!あんた大丈夫なの?ブルーに一撃食らって」

居間に入ると早速凛と桜に心配される。

「ああ、大丈夫だ。一応蒼崎師も手加減してくれたようだし。むしろ寝過ぎの所為か体がだるい」

そんな台詞をおどけた口調で言う士郎。

そして視線を周囲に向ける

「それはそうと・・・本当に現界しているんだなセイバー達」

そこではコタツに入りすっかり寛いでいる元サーヴァント達がいた。

「シロウ、ようやく眼を覚ましましたか」

蜜柑をもぐもぐ食べているアルトリア。

「随分疲れていたのですね。この時間まで休息していたとは」

お茶を飲みながらテレビのニュース番組をあの黒のボディコン、眼帯姿のままで見ている(と言うか見えているのだろうか?極めて疑問である)メドゥーサ。

「仕方ないわね。あれだけ身体に酷使して直ぐに回復したらそれこそ化け物よ・・・宗一郎様どうぞ」

マントをはずしローブ姿で包帯だらけの宗一郎を世話しているメディア。

そして・・・宗一郎の隣で緑茶を飲んでいる見慣れぬ人物。

「えっと・・・あのあなたは・・・」

「判らぬか・・・無理は無い」

「シロウ」

「ああ、イリヤ」

「信じろって方が無理かもしれないけど・・・バーサーカーよ」

「へっ?だ、だがバーサーカーって・・・」

信じられないと言いたげだったが

「私にもわからぬが元の状態に戻ったようだ」

「元の状態って事は・・・」

「ええ、厳密に言えばバーサーカーじゃなくてヘラクレスよ」

と、頃合を見計らってか、コーバック達が姿を現す。

「おう、士郎やっと眼ぇ覚ましたか」

「ええ、ご迷惑かけましたコーバック師」

「大分疲労も回復したようだな」

「はい」

「衛宮様、どうぞ遅い昼食です」

そう言って琥珀が差し出した軽い食事を綺麗に食べる。

「ふう・・・ご馳走様。琥珀さん」

「はい、お粗末さまです」

食器を水につけて全員コタツに入り込むと

「さて、本題にやっと入れるな」

ゼルレッチの言葉と同時に志貴と士郎の空気が変わる。

「士郎、今回の『大聖杯』破壊の任務ご苦労だったな」

「いえ、結果から言えば失敗も同じです。みすみす中の魔力は『アンリ・マユ』諸共奪われましたし」

ゼルレッチの労いの言葉にやや表情を暗くして返答する。

「そこや。士郎、どんな奴やった?奪ったのは?」

「もしや黒で統一した男だったか?」

「いえ、奪ったのはフード付きマントを身に着けた男です。自身を『影』と名乗っていました」

「!!最高側近!!」

「それやったら仕方ないわ。むしろようやったと言った方がええの」

「??師匠どう言う事ですか?」

「そうだったな。士郎、三日前連絡を入れたのを覚えているか?」

「ええ、何か急ぎの用件だったようですけど」

「ああ、緊急事態が起こってな」

「士郎に『聖杯戦争』の件が無ければ直ぐにでも志貴と合流させたかったのよ」

「俺と志貴を?なにが・・・」

「死徒二十七祖第二位『六王権』知っているだろう?士郎」

「ああ、それは無論、でもそれがどうしたんだ?」

「奴が復活を遂げた」

「そうですか・・・」

以外にも静かにその言葉を受け止める士郎。

だが、『六王権』の事を知っている魔術師の面々は呆然と硬直し元サーヴァントは事情がわからぬようだ。

「なんや?驚かへんのか?」

拍子抜けの表情で尋ねるコ−バック。

「いや、『聖杯戦争』で色々起こりましたから驚愕する感覚が半ば麻痺同然になってまして・・・それに俺以上に驚く人もいるでしょうから」

それと同時に

「だ、大師父!!!!!」

茫然自失から脱した凛が身を乗り出した。

「第二位が復活ってそれは!!」

「まあ全うな魔術師やったらその反応が常識やな」

「凛」

言い募ろうとした凛に静かな声で士郎が制する。

「師匠達がこんな性質が悪過ぎる冗談を言う筈がない。復活したと考えた方がいい」

「うっ・・・て言うか士郎、あんた随分落ち着いているわね」

「まあ、師匠達の無理難題を聞いていれば慣れてくる」

その表情は極めて落ち着いていた。

「すっかり捻くれてしもうたの・・・最初はワイらの命令に右往左往しとったのに・・・」

「教授、あんな無理難題立て続けに言われれば慣れます。俺も士郎も」

「そうです」

「とほほ・・もう少し手加減しとくやった・・・」

「で、コーバック師は差し置いて、では『大聖杯』を奪ったのも『六王権』に関わりが?」

「ああ、士郎の話から推理しておそらく『大聖杯』に現れたのは『六王権』最高側近『影』。別名『死皇帝の半身たる影の王』」

「影の王・・・確かに奴は影を操り戦う術に長けておりました」

「間違いない。最高側近だ」

「ふうん・・・でもよそいつ本当に強いのかよ?野郎の操っていた影それ程脅威じゃなかったぜ。うざったくはあったがな」

髪を掻きながらクー・フーリンが尋ねる。

だが、それに対するゼルレッチの言葉は意外なものだった。

「それなのだが・・・実の所、『六王権』一派に関してはそれ程明らかになっている訳ではない。わかっている事は『六王権』には『六師』と呼ばれる六人の側近衆、そして最高側近『影』がいると言う事、そして、『六師』が幻獣王と呼ばれる幻想種を従えているとしか・・・」

「へ?ちょっと待って下さい。じゃあなんでかつて『六王権』一派をしゃかりきになって封印し今までその維持を行ってきたんですか?」

思わず志貴が口を挟む。

「志貴、私は『六王権』一派と言ったのだ。『六王権』本人ではない。『六王権』には一人で世界を崩壊させる力を持っている。これは間違いない。だが、他の側近達がどれほどの力を持っているのか・・・これは未だに秘密のままだ。だが、奴らが二十七祖の一角に名を連ねられる事は間違いあるまい」

「なにしろ幻獣王なんてふざけたものを保有していたんですから」

「でもよ『六王権』は強いが他の側近はその『幻獣王』を従えているだけで本体は弱い事もありえるって事か?」

「強い弱いは別として、あやつらの『六王権』に対する忠誠心はほんまもんや。その結束は想像を超える力生むかも知れへんで」

「それは言えます。戦において結束が弱ければどの様な大軍も烏合の衆。恐れるものは何もありません」

アルトリアがコーバックの言葉に賛同する。

「さて少し話しが逸れたが士郎」

「判っています。志貴と共に『六王権』討伐の依頼謹んでお受けします。それに・・・」

士郎が『衛宮士郎』でなく、『錬剣師』としてでもない、壮絶な笑みを浮かべる。

それは『聖杯戦争』中うかつにも見せた『錬剣師』としての顔以上に禍々しいものだった。

奴とは・・・『影』とはしっかり決着着けないといけませんから

気のせいか士郎から血の匂いすらする。

それは志貴・宗一郎・ヘラクレスを除く全員が思わずひく程のものだった。

「おい、士郎、少しやばいのが出ている」

「へっ?・・・あ、ああ悪い。どう言う訳か『影』と殺しあうと思うと気分が高揚して・・・」

面目なさげに頭を掻く。

「まあ良いけどな。それでも珍しいな、それだけ負の感情をお前が剥き出しにするなんて。『錬剣師』としてのお前はあくまでも機械としてだって言うのに、さっきのお前戦闘機械と言うよりも快楽殺人犯のそれに近いぞ」

志貴のしかめた表情での評価に士郎は本気でへこむ。

「うぐっ・・・ってお前にだけはその台詞言われたくない。殺してもいい魔なら嬉々として生きたまま解体し、一人で一万の死者を殲滅した事のあるお前には」

「俺は別に嬉々としてはやっていねえって。まあ確かに仕事の時は殺戮衝動を全開にしているが・・・」

「それがまずいんだって。ある意味俺よりもやばいんじゃないか?」

露骨な墓穴の掘りあい、足の引っ張り合いになってきたのを察してか志貴は話を強制的に戻す。

「ぐっ・・・と、とにかく気をつけろよ。その笑みはマジで皆少しひくから」

「ごまかしたな・・・まあ良いか了解・・・それと師匠」

士郎が気を取り直してゼルレッチに向き合う。

「後一つお伺いした事が・・・」

「ああ、サーヴァント達の事か?」

一つ頷く。

「皆が未だに現界している事は俺にとって嬉しい事です。ですが今の状況を認める事と原因を追究しない事、これは別問題です」

「そうだな・・・正直に言えばこちらも何故かまでは判らないのが正直な所だ」

「師匠でも・・・」

「だが一つ仮説を立てる事は出来る」

「仮説?」

「ああ、これが正解ではない。もしかしたら他に原因があるかも知れん。あくまで仮説として聞いてくれ」

「判りました。それで仮説と言うのは?」

「ああ、話しによれば今現界している五騎のサーヴァントの共通点は『大聖杯』崩壊に立ち合った事、そして士郎の『革命幻想』の暴風からマスターの身を守った」

「ああ、そうだな」

「確かにわれわれはその時わが身を盾としてマスターを守った」

代表してクー・フーリンとヘラクレスが頷く。

「・・・そして意識が覚醒した時無尽蔵の魔力が沸きあがっている」

「ええそうよ。何処からか供給されている状態ね」

今度はメディアが応じる。

「・・・可能性があるとすれば士郎が『大聖杯』を破壊した時しかない。破壊した時『大聖杯』の欠片がサーヴァントの体内に取り込まれ、何らかの反応を示し、その体内で極小規模の『大聖杯』となって向こう側に繋がった。それ故に魔力は向こう側から自由に取り出す事が可能となり単独でも現界が可能に・・・」

全員ぎょっとする。

いくらなんでもそれはありえないと誰もが思った。

「その表情は当然だな。だが、現状と当時の状況、それを踏まえればこれしか可能性が無い」

「ですが師匠、仮にその通りだとします。ですが『大聖杯』には殆ど魔力なんて残されていませんでした。おまけに根源の道の繋がりも途絶えています。それで今言ったような事が本当に可能なのですか?」

「・・・士郎、師匠は仮説を打ち立てたに過ぎない。どちらにしろ俺達にはこれを判断できる材料が少な過ぎる。今の所は」

「それもそうだな・・・現時点ではアルトリア達は受肉していると言う事実を受け止めろって事だろ?」

「そう言う事」

「判っているって、この件についてはひとまず保留と言う事にしておくか」

「ああ」

区切りがついたと見たのか突然アルトリアが志貴に声をかける。

「すいませんシキ」

「ん?何か?」

「あなたはシロウの盟友と聞きましたが」

「ああ、俺は士郎を認めているし」

「俺も志貴を認めている。俺としては数少ない背中を預けて戦える奴さ」

「なるほど・・・ではシキ、私と戦って頂きたい」

「「はい??」」

二人の声が見事にはもった。

「えっと・・・アルトリアそれはどういう事だ」

意味がわからず士郎が尋ねる。

「知れた事です。私はシロウの力の程は『聖杯戦争』において十二分に知りました。ですがシキ、あなたの実力の程は何も知りません。実力を知らぬ者ほど不明確な者はありません。ですから私と一戦交えて頂きたいのです」

「なるほどな・・・アルトリア、君の意見は良くわかった。それについては俺も同意見だ。だが・・・」

志貴の言葉が最後で何故かどもる。

「そうだな・・・」

士郎も言葉少なげに頷く。

「??どうしたのですか?シロウ、シキ何か問題でも?」

「いや・・・問題と言うか・・・なあ・・・」

「ああ・・・」

二人とも言葉を選んでいる様でもあった。

「どうしたのよ?二人して奥歯に物が挟まったような言い方して」

「いやな・・・多分、志貴とアルトリアじゃあ・・・まともな戦いにならないと思ってな」

「ああ、多分アルトリアの望む戦いにはならないと思う」

その瞬間、アルトリアの視線が険しいものになった。

「なるほど・・・つまり私はシキの足元にも及ばないと言うのですね?シロウ」

「はい??」

何か致命的な勘違いをしている様だった。

戦う気満々で志貴と士郎を睨み付ける。

「シキ、是非とも私と戦って頂きたい。依存は無いですね?」

「・・・判った」

説得は不可能だと察した志貴は溜息と共に頷く。

「おい志貴・・・」

「士郎無理だ。どうも俺達アルトリアの機嫌を損ねちまったようだ」

「だけど・・・」

「早々へましないから」









一堂は道場に場所を移動し、志貴とアルトリアは互いに向き合う。

「じゃあ、勝敗についてはどちらかが一撃を加えた方が勝ちで良いか?」

「俺は構わないぞ」

「シロウ、それではシキに圧倒的に不利ではありませんか?」

士郎の言葉に志貴は当然の様に、アルトリアは若干不服と言いたげに士郎に抗議する。

「いや、これで丁度良い、志貴ほら」

「ありがとうな」

そんなアルトリアの抗議を流し、士郎は志貴に木刀を手渡す。

だが、それはいつも士郎が鍛錬で使う二メートル近いの長柄木刀ではなく、三十センチにも満たない短い木刀だった。

それを一目見た瞬間アルトリアは憤慨する。

「!!シロウ!!これは私に対する侮辱ですか!!」

「いや、アルトリア、何でそんな結論に行き着く?」

「そりゃアルトリアが怒るのも当然よ士郎」

「へっ?何でさ」

「そんな短い得物じゃ、志貴はアルトリアの懐に入り込むしか勝機無いじゃないの」

「そうです。もうこの時点でアルトリアさんの勝利は決まっています」

凛と桜の言葉を受けてようやく士郎も納得したように頷く。

だが、それでも

「言いたい事はわかった。だけどこれで大丈夫。志貴はこれがいつものレンジだから」

きっぱりと言い切る。

「・・・まあ良いでしょう。ならば全力で向かうまで」

改めて構えるアルトリア。

竹刀を正眼に構えた正当の構え。

「・・・」

一方の志貴は構える事無く、木刀を逆手に握り腕もだらりとぶら下げている。

しかし、その眼だけは今までの茫洋なものから鋭い得物を狙う鷹のそれとなる。

「っ・・・やっぱり流石は『真なる死神』ね。やる気が無いように見えるけど・・・」

「何言ってるの?志貴まだこんなものじゃないわよ」

「そうよ。稽古で力を抑えているし、そもそも魔眼だって使っていないわよ。志貴君」

「へ?そうなの」

「訓練で本気出したら、それこそここ崩壊するからな」

苦笑して士郎は志貴とアルトリアに

「・・・じゃあ始めるぞ・・・時間は五分、じゃあ・・・始め!!」

その瞬間、アルトリアは一気に志貴との間合いをつめる。

「先手必勝か間違いじゃないよな」

他人事の様に評価する志貴。

「もらった!!はあああ!!」

勝利の確信と裂帛の気合を込めて一撃を繰り出す。

「だけど・・・当たらない」

その瞬間の志貴の動きは常軌を逸していた。

予備動作無しで、右を水平移動した。

「!!!」

アルトリアの竹刀は空しく空を切り、それと同時に志貴が姿を消す。

通常ならば完全に見失うその動き、だがアルトリアは優れた動体視力で志貴の動きを正確に把握していた。

その動きは例えるならば蜘蛛のそれだ。

壁を天井を縦横無尽に駆け巡り獲物の隙を見計らう。

知らず知らずの内にアルトリアは汗を掻いていた。

やっと彼女は志貴と士郎が言った『まともな戦いにならない』の意味を正確に把握していた。

志貴との戦いは全うな決闘ではない。

王の命を狙う暗殺者との暗闘のそれに近い。

頭上から殺意を察する前にアルトリアの直感が身体を動かす。

頭上へと竹刀を振り上げる。

そこに志貴の木刀が交差する。

「・・・」

防がれても別段悔しそうでもなく、嬉しそうでもなく、無表情で間合いを取り、音も無く着地する。

「・・・なるほど・・・流石は英霊とまでなるほどだ。まあこの程度で勝てるなんて思っていないけど」

それと同時に呼び動作無しで再び志貴は姿を消す。

「!!」

アルトリアは自らの直感に従い竹刀を薙ぐ。

それといつの間にか肉薄していた志貴の木刀と交差したのは同時だった。

その後も志貴は壁を掛け、天井を走り、想像外の所から次々と奇襲の一撃を繰り出していく。

だが、アルトリアも、眼が慣れてきたのか、徐々に志貴の動きに対応を始め、だんだんと反撃も行う様になった。

それでもアルトリアの不利は変わらない。

「士郎、大分アルトリアがおされているけど・・・」

「大丈夫。どう足掻いても今の志貴じゃアルトリアは倒せない」

「へっ?」

「えっ?でも先輩さっき七夜さんとアルトリアさんとじゃあ」

「それは戦闘スタイルでの話し。アルトリアは正統派、常に真正面から敵を打ち倒す。それに対して志貴のそれは正当な暗殺者。死角を伺い一撃で相手を絶命させる。全く対照的な二人が戦った所でまともな試合にならない」

「その意味では七夜は最初の一撃でセイバーを打破しなければならなかった」

宗一郎が口を挟む。

「そう言う事。最初の一撃で志貴は決着をつけなくちゃならなかった。でもそれをアルトリアに阻まれた以上志貴がやがて負けるのはむしろ当然・・・ああ、そろそろ決まるな」

そう呟き志貴とアルトリアの試合を凝視する。

そして、

「・・・!!そこまで!!」

鋭い声が木霊する。

その瞬間二人の動きが止まる。

「はあはあはあ・・・シ、シロウ・・・終わったのですか?」

肩で荒い息をしてアルトリアが尋ねる。

「ああ、アルトリアの勝ち」

「ああ、今の一撃、掠った」

志貴もまた頷く。

だが、一方の志貴は息も乱さず表情にも余裕がある。

この姿から言って志貴が敗者とは到底思えない。

「さて・・・士郎」

「ん?」

「久しぶりにやるか?」

「そうだな・・・暫くぶりに一撃致死での極限状態でやるのも悪くないか・・・よし」

頷くと士郎は長柄木刀を手に取る。

だが、それを聞いて慌てたのが『七夫人』達。

「えーーーっ!」

「し、志貴君またやるのあれ?」

「志貴ちゃん・・・やめよ・・・」

「え、衛宮様も志貴ちゃんも止めて下さい」

言葉を変えてしきりに二人を引き止めようとする。

「へ?そんなにすごいの?」

事情を知らないイリヤが尋ねる。

「すごいではありません!」

「あんなの・・・とても見ていられません!!」

「うん!だから志貴君を止めてよ!!」

外野が騒いでいる中志貴と士郎は中央に向かい合う。

「じゃあ始めるか」

「ああ、時間制限は少し短めの五分」

「勝敗は」

「いつもどおりだ。時間切れ引き分けか」

「相手が降参するか」

「戦闘不能となるか」

「または・・・」

「もしくは・・・」

言葉を区切りうっすらと笑う。

「「死亡が確認された時」」

その瞬間、二人の気配が消え失せた。

体勢を低く保ちいつでも相手を打ち倒そうと構える。

「・・・ね、ねえ・・・桜・・・あの二人最後になんて言ったの?」

「死亡が・・・確認された時と・・・で、でも」

「そうよ・・・きっと、緊迫感を煽る為にあんな事言ったのよ」

希望で憶測を言う凛達だったが

「いや、ありゃ本気で殺しあう気だな」

クー・フーリンが残忍な現実を突きつける。

「そうだな。あの二人の眼は殺し合いをする時の眼。先程の言葉に嘘偽りはない。隙あれば間違いなく死ぬ」

ヘラクレスもまた同意する。

「リン残念ですがシロウとシキより放たれている殺意は本物です」

「条件さえ合えばあの二人本当に殺し合います」

アルトリアとメドゥーサも合意する。

「で、でも二人が持っているのは木刀ですよ?」

「そんなの関係無いわ。あの二人が殺し合いの実力で振り回したら木刀だろうが人間なんて容易く殺せるわよ」

「まあ、今回時間制限を辛めに設定し取るのが唯一の救いかの」

その瞬間、二人が同時に動いた。

「おおおお!」

短い雄叫びと共に士郎の木刀が空を薙ぎ払う。

「・・・」

対照的に無言のまま、それを這う様な動きでかわす志貴。

だが、空振りした士郎は何を思ったか木刀を持った手を躊躇い無く放す。

そのままあらぬ方向に飛ばされるかと思いきや、士郎の手には木刀が握られている。

手を放した際、一回転した木刀を再度握り直し構え直すよりも早く士郎は追撃の体勢を整えていた。

そのまま今度は飛びかかろうとした志貴目掛けて木刀の柄を突き出す。

それは鳩尾と言う生易しいものではない。

目指すは咽喉仏、それも突き潰さん勢いだ。

それを志貴は木刀を下に突き込む事で軌道を下に落とす。

それは士郎の決定的な隙を志貴に提供する。

そのまま飛び掛り、がら空きになった士郎の首筋に木刀をと叩き込む。

その一撃は鋭く、とても今持っているのが木刀とは思えない。

だが、危険を察した士郎は地面についた反対側を棒高跳びの要領で木刀を地面について反対側を上に押し上げる。

木刀は見事にしなり、志貴の一撃の軌道にギリギリで割り込む。

乾いた木がぶつかり合い、同時に士郎の足が志貴目掛けて飛ぶ。

これは攻撃の為と言うよりは距離を置く為のもの。

志貴も敢えて自分から後方に跳び士郎と距離を置く。

「・・・腕上がったな」

「貴様こそ」

にやりと笑いあう。

「良いんだぜ。宝具出しても」

「貴様こそ良いぞ。『閃の七技』でも『死奥義』でも使ったって」

挑発も済ませる。

「まだまだ大丈夫だな。減らず口叩けるなら」

「ぬかせ」

再び動き出す。

木刀の刺突三連撃を容易くかわし、すれ違いざまに脇腹を狙う。

刺突で敢えて隙を作り相手を誘い込み自分の懐にもぐりこんだ隙を狙い後頭部に柄を突きこもうとする。

危険を察して攻撃を断念し相手の脇を通過して後方に回り込む。

一撃をかわされても驚かず直ぐにその視界に相手を捉え、

直ぐに体勢を整えて、

得物を構えなおす。

「・・・」

暫し様子を伺いあう二人。

だが、不意に空気を緩めて構えを解く。

「??ど、どうしたの?」

「も、もう五分過ぎたんですね?そうですよね」

ほっとして桜が周囲に同意を求める。

が、アルクェイド達の表情は更に怯えの色が濃くなっていた。

「やっぱり・・・」

誰かがポツリと呟く。

「やっぱり?どう言う事なの?」

凛の質問の答えは当事者達が応じた。

「やっぱり、これじゃあ、いまいち緊迫感が出ない」

志貴はそう毒づくと木刀を放り投げる。

「これでも十分だと思うがお前とやり合う時だけは駄目だな。どうしても気が抜ける」

士郎も木刀を立て掛ける。

「やっぱしこっちか・・・投影開始(トーレスオン)」

士郎の手に方天戟が握られる。

先日のアルトリアの時とは違い刃もついている。

「そうだな」

志貴は自然な動作で『七つ夜』を構える。

小気味のいい音を発してナイフが飛び出る。

『七つ夜』を逆手に持ち再度構える。

士郎も方天戟を両手で構えて体勢を低く保つ。

「おいおい、まさかあの二人今度はあれでやる気か?」

絶句する。

あれでは確実に怪我は免れない。

最悪死亡の可能性もある。

「やっぱりああなっちゃった・・・志貴ちゃんも衛宮様も木刀使っても結局はああなっちゃうから・・・」

琥珀が今にも泣きそうな声で言う。

「い、何時もやっているの?」

「いつもと言う訳ではありませんが、二人が決闘形式の鍛錬を行えば十回中九回は」

「殆ど毎回じゃないの!と、止めないと!!」

凛が立ち上がるが、

「止めときや!」

コーバックが抑える。

「今のあの二人の間に入ってもうたら一瞬でなます斬りにされるで」

現に彼らが試合をしている最中に奇襲をかけてきた魔術師が二人の手で一秒にも満たぬ間に半殺しにされたのを見ているコーバックは必死である。

「あと、二分弱、それまで我慢しなさい」

いつの間にか青子が時計を見てなだめる。

「で、でも・・・!!じゃあアルトリアさん達なら」

「もっと問題や!下手したら二人揃って全力で潰しにかかるで」

アルクェイド達は時間が過ぎるまで無事に済んで欲しいと言う意味を込めての事だろうか、必死に祈っている。

やがて、二人は同時に動いた。

方天戟を片手で縦横無尽に振り回す士郎。

それの僅かな間隙に何の躊躇いも無く潜り込み、士郎の懐に入り込む志貴。

だが、それを最初から予測していたのか脇差を突きたてる。

それを手持ちの『七つ夜』で力任せに・・・いや、まるで空気を斬る様ななんでもない動作で通す。

その瞬間、脇差は根元からぽっきりとへし折られる。

だが、それも時間稼ぎだったのか一秒弱の隙に志貴の腹部をまたもや蹴り上げる。

強化を使用したのだろうが、それはいかなる脚力か、標準クラスの体格である筈の志貴をいとも容易く壁に吹き飛ばす士郎。

そして壁に叩きつけられた志貴の首を方天戟で刎ねようとする。

その方天戟の一撃を間一髪でかわし柄を鷲掴みにすると一刀で両断する志貴。

消えていく方天戟を投げ捨て、『七つ夜』を士郎の眉間に突き刺そうと構え飛び込み、士郎は既に新たな槍を突き出し、志貴の心臓を貫かんと構えなおす。

それを互いの得物で弾き士郎は後退し、志貴は体勢を整える。

そして、同時に踏み込み決着を着けようと懐に飛び込む。

「!!五分経過よ!!」

青子の呼び掛けに二人の動きが止まる。

志貴の『七つ夜』は士郎の心臓を突き刺そうとして、

士郎は何時投影したのか、槍から虎徹に握り替え、志貴の肩口から袈裟斬りを狙い、

共に一センチで止まっていた。

「ふう・・・これで百戦百引き分けか」

「勝敗付いたら困るけど」

勝敗が付いた時はどちらかが死体になる時だからなと二人が笑う。

「だけど志貴、いくらなんでも俺の懐に潜り込むのは失敗だったな」

「ほざけ、離れれば方天戟の射程が伸びるくせに。そういうお前も長物に偏りすぎだ。そのバランスいい加減是正しろ。だいたいあの蹴りだって俺が先に跳ばされる方向に跳んでいなかったら内臓破裂してたぞ」

「何言ってやがる、大人気なく『直死の魔眼』まで使用した奴には言われたくない」

先程まで本気で殺しあっていたとは思えない穏やかな声で自分達の行っていた決闘を評し、憎まれ口を叩き合う志貴と士郎。

『・・・・・・』

そしてその様子をわなわなと身体を震わせながら見る『七夫人』を含めた女性陣(メディア・メドゥーサ・青子除く)。

「「ん?どうした?皆?」」

不思議そうに尋ねる朴念仁二人。

それが引き金となった。

「・・・・・・どうしたじゃないでしょうが!!!このあんぽんたん!!!」

全員の心情を代表した凛の怒号が二人の鼓膜を強襲する。

「!!!!」

「っっっっぅぅ〜」

二人とも耳を押さえて蹲る。

「ど、どうしたんだ?凛?そんな怒鳴るような事したか俺ら」

「し、したかって・・・うがあああああああ!!!絶望的なまでの察しの悪さね!!この唐変朴!!!

次の瞬間、再度爆発した凛の手で全体重の乗った崩拳が士郎の鳩尾に入る。

「!!!」

流石の士郎も油断していた所に直撃を受けた為、声無き絶叫を放ち崩れ落ちる。

「り、凛・・・何怒っているか知らないが・・・問答無用で崩拳と言うのは人間としてどうかと思うんだが・・・」

未だダメージが残っているのかアーチャーを彷彿とさせる口調をする士郎。

「とにかくあんた達一騎打ち禁止!!」

「はぁ!何でさ?」

「そうです!!あんな危険な事続けさせられません!!」

「私もあのような命がけの鍛錬など認める訳にはいきません!!」

「私たちも賛成!!」

「ひ、翡翠達も?だが、皆いつも見ているだろ?」

「見ている事と慣れる事は大きく違うの!!」

ひとしきりの口論の後、結局志貴と士郎の一騎打ちは原則禁止となった。

無論女性陣の力押しによるものだったが。









夜となり、夕食も食べ終わり全員が一息ついている頃、士郎は土蔵にいた。

「・・・」

ただ静かに瞑想し『聖杯戦争』で疲弊した魔術回路を休ませる。

いくら半日を超えるほど時間をかけて、休養を取ったと言え未だ万全ではない。

静かな呼吸し、己をただ落ち着ける・・・そんな土蔵に人の気配がした。

「?・・・」

士郎が気付く。

「・・・誰だ?」

その暗がりに人影を認めた。

「へえ・・・あっさりと気付いたんだ。人間にしてはやるわね」

そこにいたのは艶やかな闇よりも濃い黒髪を肩口までしか伸ばしていない少女。

士郎の記憶ではこの様な少女に知り合いはいない。

「誰だ?初対面だと思うんだが」

「ええ、私もあんたとは初対面よ『錬剣師』衛宮士郎」

その割には口調、眼光に敵意が灯っている。

「全く・・・気に食わないわ・・・ええ気に食わない。こんなつまらない人間に兄上が固執するなんて」

「兄上?」

「うっさいわよ・・・良いからさっさとあんたは・・・死になさい!!」

その瞬間、少女は一気に間合いを詰め士郎の頭部を握りつぶそうとする。

だが、士郎もギリギリでかわし土蔵の外まで退避する。

その瞬間侵入者を警告する呼子が反応した。

「士郎!!」

いち早く志貴が駆けつける。

「志貴、油断するな」

視線を土蔵に向けたまま手早くグローブを脱ぐ。

「ったく・・・まあ少しはやるようね。まぐれでも私の攻撃かわすんだから・・・でも次は無いわよ」

土蔵から少女が姿を現す。

「??士郎誰だ?」

「俺が知りたい。だが、油断するな。あの女おそらく死徒の類・・・」

「その様だな」

頷き合い志貴は『七つ夜』を構え士郎は方天戟を投影する。

「ああもう、うざったいわね。いいわ。そんなに死にたいなら私が殺してあげるわ。そっちの優男と一緒に」

そう言い意識を集中しかけた時

「やれやれエミリヤ」

突然聞き覚えのある声がした。

「!!あ、兄上」

いつの間にか少女の後ろに見覚えのあるマントが翻る。

「全く・・・お前は本当に」

苦笑しながらエミリヤと呼んだ少女の頭を撫でる。

「あ、兄上・・・そ、その・・・」

「お前は手を出すな。こいつは俺の敵だ」

そう言い、前に立つ『影』

「よう、影の覇者。随分と派手なご登場だな。第二ラウンドか?だったら喜んで受けるが」

「士郎・・・まさかと思うがこいつが・・・」

「ああ、『大聖杯』より魔力を奪った『六王権』最高側近『影』だ」

「慌てるな『錬剣師』。今回は妹を連れ戻しに来ただけだ」

「妹?その血の気の多い子が?」

「ああ、俺の妹のエミリヤだ」

「兄上!敵に真名を」

「構うまい。過去の英雄と違い俺達は真名を隠しているのではない。捨てたのだからな」

「捨てた?それは一体・・・!!志貴」

「判ってる・・・囲まれたか」

二人はいち早く背中合わせに死角を無くす。

「ほう・・・なかなかに戦いに慣れているじゃねえか」

「それに二人とも並々ならぬ力を感じるな」

「あっちの赤毛の方が兄ちゃんの宿敵?」

「その様ですね」

「・・・なるほどな。それなりには強いようだな」

その言葉と同時に中庭に更に五人の人影が現れる。

だが、年齢も性別も服装までもまちまち。

ただ共通しているのは、その身に宿された強大な魔力だけ。

「・・・『風師』・『炎師』・『光師』・『水師』・『地師』・・・お前達までどうした?」

「いやなに、旦那が固執している『錬剣師』って奴を一目拝ませてもらおうかって・・・」

「って兄ちゃんが言い出したのが発端だけど」

「てめえ!!余計な事を言うな!!」

「こいつら一体・・・」

「名乗りが遅れたな。『六王権』最高側近『影』及び側近衆『六師』」

「「!!」」

さしもの志貴と士郎も絶句する。

まさか『六王権』の七人の側近が全てここに集うとは・・・

(主よ!!)

そんな中、志貴の中の四聖が警告を発する。

(どうした!!)

(お気をつけ下さい主よ!!)

(『影』と名乗る者以外全て幻獣王を従えております)

「何だと!!」

思わず声を上げる志貴。

だが、異変は向こうでも起こっていた。

「??おい、シルフィード?どうした??」

「あれ?ガブリエル??」

「ジン??一体どうした!!」

「あ、あら?どうしたの?」

「ちょっと!何しているのよ!!」

「・・・何故か・・・」

『六師』達があるものは怪訝な表情で、ある者は憮然とした顔でそれぞれの幻獣王に問いかける。

「・・・どうした?」

「それが旦那、幻獣王が急に引っ込んじまった」

「幻獣王が?」

「ええ。まるで何かに怯えている様に」

その言葉に怪訝な表情となる『影』。

「それは一体・・・」

更に次の瞬間、

何もかもが鳴動し恐れ戦いた

『!!!!!!!』

中庭にいた全員が硬直する。

その視線の先には、何もかもが黒で統一された豪華な服の年若い男が立っていた。

「「「「「「「陛下!!(王様!!)」」」」」」」

『影』と『六師』が一斉に傅く。

「陛下・・・だと?」

「じゃあ・・・こいつが・・・死徒二十七祖第二位・・・『六王権』・・・」

志貴と士郎は知らず知らずの内に息を呑んでいた。

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